社内でもアイデアマンとして知られる名物マーケッターの、ユニークな発想力によって生み出された新製品。人事異動でマーケティング担当者が変わってから、まったく売れなくなってしまった・・・。
日本国内では誰もが知っているメガブランド。満を持して海外市場で発売したが、さっぱり売れなかった・・・。

多くの日本企業から聞かれる悩みですが、これらの問題にどのように対処すべきなのでしょうか? その問いに対する答えは、マーケティングを属人的で場当たり的なものから、組織的でシステマチックにものに再構築すること。それこそが、マーケティングの業務プロセスを可能な限り標準化する「マーケティングプロセス・リエンジニアリング」です。

「そもそもマーケティングは創造的なものなので、属人的にならざるを得ない。」「マーケティング戦略を、決まり切ったフレームに当てはめて考えてもクリエイティブなアイデアは出てこない。」そう考える人も多いと思います。しかし、本当にそうでしょうか? もちろん、そのような考え方も間違いではありませんが、同時にその限界も認識しておく必要があります。属人的なマーケティング活動を続けていても、組織が大きくなったり、事業がグローバルに展開したりするのに伴って、いずれ機能しなくなってしまいます。

では具体的に、どのようにマーケティングプロセスを設計すればいいのでしょうか。うまく機能させるためのポイントは3つあります。

第一に、ブランドの提供価値を明文化すること、すなわち「ブランド価値規定」です。「企業にとって、人も物も金も全てが入れ替わった後に残るのがブランドである」とよく言われます。しかし、これが暗黙知に留まっていてはブランドすらも残りません。たとえ担当者が入れ替わっても、すぐにでも共有できる状態にしておかなければなりません。また、グローバル展開する企業であれば、海外のローカルスタッフがすぐにでも共有できるように英語版も作成しておく必要があります。
ただし、一部の人間や現担当者の思い込みだけでブランド価値規定をしても、関係者の納得が得られない場合があります。その場合は、第三者によるファシリテーションを交えたワークショップなどによる合意形成のプロセスを経るのが望ましいでしょう。

第二に、意志決定のためのフォーマットツールの開発です。ブランド価値規定を行っても、それをどのように各マーケティングプログラムに落とし込むかを担当者に委ねてしまえば、属人的でバラバラになってしまうことは避けられません。どの国のどの担当者であっても、自分の考えた戦略やアイデアを、必ず全社共通のフォーマットに落とし込むことを義務付ける必要があります。それによって、マネジメント側はあらゆる国や商品のマーケティングプログラムを、共通の視点で評価できるようになります。また、担当者側はフォーマットの項目を埋めなければならないため、思考回路が自社のマーケティングウェイに沿ったものに自然に矯正されていきます。これは必ずしもマーケッターの創造性を阻害するものではなく、むしろマーケッターにとって自分のアイデアを客観的に評価できる有効なツールとなるのです。

第三に、適切なKPIによる評価です。売上や利益などはビジネスの成果としての結果指標ですが、マーケティング戦略を評価する上ではこれだけでは不十分です。その成果を生み出すための戦略仮説が正しかったかどうかを評価するには、結果指標を上げるための先行指標をKPIとして設定する必要があります。例えば、競合他社から顧客を奪ってくる戦略であれば市場シェア、自社のロイヤルユーザーを増やす戦略であればリピート率などがKPIとして妥当だと考えられます。そうでなければ、結局「売れたから良かった」、「売れなかったから悪かった」ということしかわからず、マーケティングの方法論が軽視されてしまうことになります。

このようなマーケティングプロセスの標準化は、一部の大手外資系企業では当たり前のように行われています。そのための責任者として、CMO(最高マーケティング責任者)という役職を設置している企業も少なくありません。しかし、多くの日本企業ではまだまだ対応が遅れているようです。人材の流動性が高まり、急速にグローバル化が進んでいる今こそ、CMOを中心としたマーケティングプロセス・リエンジニアリングが求められているのです。