CMOについて、これまで組織構造の観点とCFOとの対比の観点からお伝えして来ましたが、最終回の本稿では、いよいよ具体的な仕事の中身に踏み込みたいと思います。

マーケティングというのはその分野特性上、企業や業界によって業務内容や役割が大きく異なります。そのため、CMOの仕事の中身も一律に規定するのは難しいのですが、煎じ詰めればCMOがマネジメントすべき対象は5つに集約されると私は考えています。すなわち、①ブランド、②バリューチェーン、③パートナー、④ナレッジ、⑤データです。

【図】CMOがマネジメントすべき5つの対象

第3回_図1

 

以下、順番に見ていきましょう。

 

①ブランドマネジメント

CMOがマネジメントすべき対象の中でも、最も重要なのがブランドです。一言でブランドと言ってもその内容は多岐に渡り、とても複雑な構造になっています。階層としては大きく「コーポレートブランド」と「プロダクト・サービスブランド」に分けられ、企業によってはさらに細分化されている場合もあります。

コーポレートブランドマネジメントは、CMO自らが直轄の専門組織・専門スタッフを率いて推進すべき業務領域です。顧客・社員・投資家・社会に対して企業姿勢やブランドの思想を伝え、さらには具体的な行動で示すことが求められます。

一方、プロダクト・サービスブランドマネジメントは、大企業の場合、CMOではなくブランドマネジャーにしっかりと権限と責任を委譲し、彼らにリードしてもらうべき業務領域になります。CMOはブランドマネジャーとの間で明文化されたブランド価値規定(定性目標)とKPI(定量目標)を共有した上で、その成果を厳しくチェックする必要があります。また、ブランドマネジャーは将来のCMO候補でもあるので、後継者育成の観点も忘れてはいけません。

複数事業を抱えている企業やグループ経営を推進している企業については、コーポレートブランドと各プロダクト・サービスブランドの構造を全体最適化する、「ブランド体系構築」も大きなテーマとなります。

 

②バリューチェーンマネジメント

第1回でも述べたように、「マーケティング」というのは単一機能ではなく、「(顧客視点によって)機能を束ねる“機能”」です。そのため、バリューチェーンの各機能を顧客視点によって統合するのもCMOの仕事になります。

外部環境変化の激しい昨今では、通常、全く同じビジネスモデルが何年も変わらずに済むということはなく、常に進化し続けることが求められます。あるいは、数十年に一度の思い切った企業変革をリードすることが必要な場面もあるかもしれません。

アパレル業界を例にとれば、古くはユニクロが小売業からSPA業へ、最近では丸井が百貨店ビジネスから不動産×金融ビジネスへシフトしたような、思い切ったバリューチェーンの再構築は今後もどんどん増えてくるはずです。長年慣れ親しんだやり方を変えるのは簡単ではないですが、その変革の旗手となるのもCMOの役割なのです。

 

③パートナーマネジメント

マーケティング業務の一つの特徴として、広告会社や調査会社、WEB制作会社など外部パートナーとの連携場面が多く、関係性も深いという点が挙げられます。パートナー先の選定については、基本的には権限と責任が委譲されたブランドマネジャーが個別に判断することになるのですが、業務内容によっては一つのパートナーに集約することでコストを効率化できる場合もあります。そのため、どの業務の外部発注先選定を現場判断に任せ、どの業務を任せないのかという線引きも、CMOがバランスを見て決めるべきことになります。

現実には、とりあえず担当者の顔見知りのパートナー3社ぐらいに声をかけて、コンペ形式で提案書と見積書を提出させて、結局いちばん安いところに決めている例も多いようです。しかし、マーケティングパートナーは資材調達先やシステムベンダーとは異なるため、通常の購買部門の審査プロセスとは考え方を変えるべきです。

本来はCMOの幅広い社外ネットワークの中から信頼できるパートナー候補を選定し、コスト面だけでなくクオリティ面とのバランスで判断すべきです。この選定プロセスは、パートナー側のモチベーションにも大きく関わってきますし、そのモチベーションが成果物のクオリティにも大きく反映されるということを認識し、丁寧かつ慎重に進める必要があります。

 

④ナレッジマネジメント

マーケティングのナレッジは属人化しやすいため、CMOが主導してナレッジ蓄積の仕組みを構築・運用しなければなりません。例えば、一つのブランドで成功したプロモーション施策を自社の別のブランドにも適用することで、勘と経験と度胸だけに頼る施策よりもはるかに高い確率でプロモーションを成功させることができるようになります。

また、グローバルビジネスにおいては、このナレッジマネジメントがさらに重要となってきます。マーケティングはローカル性の高い分野なので、ある国での成功事例がそのまま別の国で適用できることは少ないですが、それでもその成功要因を抽出することで得られる学びはたくさんあるのです。

現場のマーケッターたちとって使い勝手良く利用できる仕組みが整っていなければ、どんなに優れたナレッジも宝の持ち腐れとなってしまいます。ナレッジマネジメントの巧拙は全社のマーケティングレベルに直結するということと、放っておいてもナレッジは自然には蓄積されないということを肝に銘じておきましょう。

 

⑤データマネジメント

「データは21世紀の石油である」と言われています。つまり、このデータという新たな経営資源には、20世紀における石油や天然資源などと同じぐらいの価値があるという意味です。ボクシングの格言「左を制する者は世界を制す」ではないですが、これからの時代は「データを制する者はマーケティングを制す」と言っても過言ではないでしょう。

しかし、実際には膨大に蓄積されたデータから、意味のある情報を抽出するというのは容易ではありません。そのためにはしかるべき専門スキルを持った人材と、まとまった工数を投入するという意思決定が欠かせません。これを判断するのもCMOにとっての重要な仕事です。

データ解析というと統計の専門家のような人材がすぐに思い浮かぶかもしれないですが、実際には自社のマーケティング戦略の文脈に精通しているマーケターの存在の方が重要になります。マーケターによる現場のビジネス感覚が、自社にとって戦略的に意味のある仮説を生み出す源泉になるのです。

 
こうして見てみると、CMOの仕事がいかに広範囲に渡っているかを実感できるのではないでしょうか。多くの日本企業にはCMOが不在のため、この5つの領域が適切にマネジメントされておらず放置されている状態です。CMOの導入をきっかけにこの5つをテコ入れすることで、日本企業のマーケティング力は格段にレベルアップすると私は信じています。

 

※本コラムは、株式会社宣伝会議が運営する広告界のニュース&情報ポータルサイト『AdverTimes(アドタイ)』に掲載された寄稿記事「CMOがマネジメントすべき5つの領域とは?」の内容を転載しております。

 

■CMO ― 『AdverTimes(アドタイ)』連載記事(全3回)