半世紀余の時を超えて、2020年に東京オリンピックが開催される。オリンピックが個人や社会に与える影響には様々なものが考えられるが、企業にとっても有形無形の影響が及ぶことになる。2020年がひとつのメルクマールと目される中、企業はこれからの時間をどのように過ごせば良いのか。企業が自らの手でどのようなブランドを創るかによって自ずとその解は導き出されることだろう。
本稿では企業・事業の変革に携わるひとりのコンサルタントとしての実務的な観点から、近い将来に BtoB 企業の多くが直面すると考えられる課題を切り口に、企業ブランディング手法における試論を展開していきたい。なお、本稿は以下のような流れで展開していく。

Ⅰ.企業におけるブランディングのこれまで
企業がコーポレートブランド構築に注力するようになった背景は何があるのか。また、これまでに確立されてきた方法論にはどのようなものがあるのか紹介する。

Ⅱ.従来のブランディングに対する課題認識とあるべき方向性
近年のコーポレートブランド構築の作業を通じて見えてきた課題認識を共有した上で、何がブレークスルーとなるのか、今後必要となる発想法について論じていく。

Ⅲ.これからの BtoB 企業におけるブランディングの方法論
前段の課題認識および発想法とリンクする形で、BtoB 企業がブランディングを進める際にはどのような点に留意すれば良いのか。
実践的な方法論となるフレームワークについて紹介していく。

Ⅳ.さいごに ─ ブランドの未来 ─
ⅠⅡⅢ章で説明してきた論をまとめながら、これからの企業ブランディングにおける展望を述べていく。

また、本稿では様々な BtoB 企業において汎用性が高いと思われる考え方やフレームワークの紹介に主眼を置いているため、対象となる業種や特定の事業部門に閉じた形では記述をしていない点を注記しておく。それでは上記の構成に従って本論を展開する。


Ⅰ.企業におけるブランディングの現在位置

そもそも企業が自社のブランディングに対して、熱心に取り組み始めた背景には何があるのか、コーポレートブランドの構築が活況を呈した 2000年前後の時代背景をおさらいしておきたい。

● 2000年代初頭の「自信喪失」モード

日本経済は 1990年代を通じて苦境の淵に在り続けた。1991年のバブル崩壊を機に平成不況に突入、1995年には阪神・淡路大震災に見舞われ、金融機関の不良債権処理もなかなか前に進まなかった。20世紀終焉の IT・ベンチャー企業ブームもわずか数年でネットバブル崩壊の憂き目に遭っている。右も左もいわゆる「失われた 10年」の真っ只中に在った。
このような流れの中、2000年代初頭に「コーポレートブランド」への大きな注目が集まるのは自然な成り行きであった。“自信喪失モード”にあった日本企業は自らの精神的な拠り所を考え直そうとして、好調であった米国企業が既に確立していたブランディングの方法論を積極的に受け容れた。一方で、米国型の株主資本主義発想は従業員を大切にする日本企業に馴染まない面も多いことから、顧客によりフィーチャーした方法論が採用された。企業経営の文脈において当時のブランディングを説明するならば、本来は利害が相反するはずの「株主」と「従業員」(それぞれは「配当」と「給与」という形で企業の利益配分を巡って争う存在である)のゼロサム・ゲームを克服し、プラスサム・ゲームへと導くために「顧客」が第一に重視される存在とされたのである(図 1)。

図1 顧客起点のブランディング

顧客を起点にして企業が果たす約束を明文化することを「ブランド提供価値規定」と呼ぶ。この作業は将来的に自社が取り組んでいきたい象徴的な顧客像(ブランドターゲット)を想定した上で、企業が有する具体的な事実・特徴を目に見える価値・見えない価値に昇華させ、自社の提供姿勢とともに一言に集約した約束として規定するものであった。弊社ではそのフレームワークの形状からこれを「ブランドの扇」としている(図 2)。

図2 「ブランドの扇」

企業の多くは全社を挙げて、顧客に対する意思であり、従業員における求心力の源泉にもなり得る「ブランドの扇(ブランド提供価値)」の規定に躍起になっていた。折しも小泉構造改革の時期と重なり、企業のリストラクチュアリングが盛んだったことも、コーポレートブランドの中核となる価値を記述し直す作業を側面的には支援していたように思える。これはコトバを選ばずに言うならば、企業にとっての壮大な「自分探し」でもあった。

● 奏功したコーポレートブランド構築活動

他方で、全社を挙げてのブランド創りの大掛かりな取り組みは多くの企業で功を奏した。1980年代に一世を風靡した CI 活動とは異なり、シンボルマークや経営理念などのアウトプット表現のみならず、その検討作業過程で洗い出した様々なファクトが事業の本質的な課題を浮かび上がらせたからである(図 3)。またブランディングの作業に携わったメンバーはブランド提供価値を策定した後、各々の日常に戻る中で「部門最適」だけでなく「全社最適」の視点を以って業務に従事する習慣が身に付いた。これにより社内の継続的なブランディングの仕組み作りにも繋がった。こうした多くの副産物が得られたことも、コーポレートブランドを構築する利点であったと言えよう。

図3 CI活動とブランディングの違い

なお、BtoB 企業においてもコーポレートブランドを構築するアプローチに大差は無かった。BtoC 企業は顧客=生活者を起点に、感性的な購買側面も踏まえながらブランド提供価値を規定する。他方で BtoB 企業では様々な関係部門が論理的に購買の意思決定を進めるという違いはあるが、顧客=購買主体となる企業(あるいはエンドユーザー)を起点にブランド提供価値を規定する点では、策定のプロセスならびにアウトプットが BtoC 企業と抜本的に違うということはない。2000年代初頭の BtoB 企業はBtoC 企業で確立された方法を踏襲することで、コーポレートブランド構築の作業を問題なく推進することが出来たのである。いま現在でも、上述のアプローチ自体が錆び付いてしまった訳ではない。しかし、近年のブランディングにおいて、顧客の視点からコンセプトを導くだけでは済まされなくなったのも事実である。それでは一体、どのような視点を組み込まなければならないのか。
次章ではこの数年間のコンサルティング実務を通じて筆者がとみに感じるようになった、コーポレートブランド戦略における新たな課題認識とそのブレークスルーとなり得る方向性について詳述していく。

 Ⅱ.従来のブランディングに対する課題認識とあるべき方向性

● 企業ライフサイクルの存在

世のマーケティングの教科書では製品ライフサイクルという考え方が広く紹介されており、製品が市場に登場してから退出するまでの間を幾つかの段階に区切って示すことが多い。本稿では導入期から成長期・成熟期を経て衰退期に至るまでの 4 段階に区切り、それぞれ取り組むべきポイントを図 4 のように示す(図 4)。

図4 事業ライフサイクル・市場ライフサイクルとブランディング・ブランド戦略の要諦・ブランドの認知向上を目指したマスマーケティング施策

この考え方は製品に留まらず、企業においても同様に当てはまる。導入・成長の段階では企業間の競争こそ厳しいが市場全体は拡大の途上にある。一方で、成熟・衰退の段階では市場が縮んでいく中でプレイヤー企業は淘汰を余儀なくされる。あらゆる企業が製品やサービスを次々と世に送り出し、イノベーションを続けなければならない宿命にあるのは、ライフサイクルという背景がある故である。ここまで述べた段階で、読者の皆様もハタと気付かれることであろう。それでは成長期以前と成熟期以降で、企業のブランディングの方法論は変わらなくて良いのだろうか?

●「成長」と「成熟」、2つのモメントを切り分けたブランディング

筆者のこの数年間のブランド戦略コンサルティング実務を通じて、従来の方法論に対して変容が求められると感じた点はずばり、「成長」と「成熟」の 2 つの異なるモメントを使い分けなければならないということである。
「ブランド(英・Brand)」の語源は、古期スカンジナビア語の「Brandr(英・Burned)」に由来すると言われており、これは「(牛などの家畜に)焼印を押す」という意味である。牛の所有者が放牧の際に、他所の牛と紛れないように区別すべく脇腹に押した焼印のことを指していた。時は流れたが、ブランディングの由来が言わんとすることは今も変わらない。企業にとってブランディングを通じて「(競合他社との)差別化を図る」ことは、昔も今も重要な命題なのである。事業展開を試みる市場が導入期・成長期にあるならば、競合他社よりも早く認知の向上や理解の促進を達成したい。必然的に他所の会社では約束できない「差別化ポイント=我が社らしさ」を探し出して、ブランド提供価値(コンセプト)へと落とし込むことになる。事業(市場)が成長局面に置かれているならばそれでも良かった。しかし、その方法論だけでは企業のブランディングが耐えられない時代になってきた。

● 成熟期に求められるブランディングの概念

あらゆる事業は成熟する宿命にある。いかなる新製品や新サービスも登場したばかりの頃は華々しく輝いているが、やがて類似の製品やサービスが世に溢れ、企業が互いの差異を連呼し合ううちにユーザーが慣れてゆき、当初の輝きは自然と鈍ってくる。もちろん企業もこの状況に対して、ただ手をこまねいている訳ではない。成熟期にある事業(製品やサービス)では、リブランディングを行った上でマーケティング手法を見直すことが定石であろう。すなわち、市場の顧客ニーズを改めて見直し(=セグメンテーション)、新たな顧客層の絞り込み・選定を行い(=ターゲティング)、その顧客層にもたらすベネフィットを考え直す(=ポジショニング)。いわゆる「STP (Segmentation / Targeting / Positioning)」にしっかりと取り組むことは、成熟期における事業ならば当然に取り組む手段である。
しかしながら、本稿では敢えて「リブランディング・STP の再設計」に留まらない、事業の成熟期における新たなブランディングの概念を提唱したい。言うなれば、「ラディカル・ブランディング(Radical Branding)」である。“Radical”という英単語には「急進的な・先鋭的な」という意味もあるが、同時に「抜本的な・根本的な」という意味もある。
極端なことを言えば、リブランディングは新たな顧客に目を転じ、既存ブランドのお化粧直しを行うことである。このブランディングの方法は、成長期におけるブランディングの基本発想を脱していない。企業が「差別化」できるポイントを懸命になって探り出し訴求することは、顧客にとっては「微差」に過ぎない可能性がある。ややもすれば、会社間の「まちがい探し」をさせることに陥ってしまうのではないだろうか。これが近年のコンサルティング実務を通じて、筆者自身が切実に感じた課題認識でも有る。
それでは「ラディカル・ブランディング」概念は何が違うのか。新たなブランディングの概念で重視したい点を①バックキャスト発想、②体験デザイン発想、③エコシステム発想の 3 つに分けて次項で簡潔に紹介する。

● ラディカル・ブランディングで重視したい3つの発想

①バックキャスト発想

ラディカル・ブランディングで焦点を当てているのは成熟期における事業(製品やサービス)のありようである。企業が有する製品やサービスはもはや「作れば売れる・取引が発生する」という時代ではない。従って、重要なことはその事業における製品やサービスの利用されるシーンを起点に遡ってブランディングを組み立てる発想である。これを本稿では「バックキャスト発想」と呼ぶ。この発想におけるフレームワークの詳細に関しては次章で説明を施していく。

②体験デザイン発想

2 つ目の発想は「体験デザイン発想」である。従来のブランディングでも顧客ニーズを起点とした発想はしていたが、多くの場合において顧客の「購買(消費)に関するニーズ」の側面のみを切り取って、ブランド提供価値を規定していた。しかし、これは顧客の行動・体験のほんの一時点を説明しているに過ぎない。これからのブランディングに求められることは、購買(消費)も含めたユーザーのあらゆる体験をデザインするという発想である。

③エコシステム発想

3 つ目の発想は「エコシステム発想」である。「エコシステム(ecosystem)」とは「生態系」を意味する英語である。従来のコーポレートブランディングでは、自社の経営資源をほとんど唯一の拠り所として顧客に対する提供価値を記述してきた。だが、実際はどうだろう。企業活動は一社だけで完結した形では説明などできない。サプライヤーや加工・組み立て、販売代理店、複数の企業の活動を束ねてようやく、ユーザーへの価値の提供が可能になる。裏を返せば、従来のブランド提供価値規定の文法では、十分な形でエコシステムとしての企業活動を捉えられてはいなかったのである。とりわけ企業・取引先間の緊密な関係性がモノを言う BtoB 企業のブランディングにこそ、重要な発想法ではないかと考える。
ここまでは 3 つの発想法を観てきたが、次章ではそれぞれの発想法を具現化するフレームワークの試案を展開していく。

Ⅲ.これからの BtoB 企業におけるブランディングの方法論

繰り返しになるが、成熟期に置かれた事業にとって競合他社との差別化し得るポイントを同定し、ブランド提供価値を紡ぎ上げる方法論だけではもはや十分でない。ややもすれば、顧客からは企業同士の「微差」を訴えているだけに映ってしまう。前章ではこうした課題をブレークスルーするために 3 つの発想法を紹介した。
本章ではこの発想法にリンクする形で 3 つのフレームワークについて詳述する。それぞれのフレームワークは筆者がコンサルティングの実務を通じて開発を進め、幾つかの企業に適用してきたものである。とりわけ、BtoB 企業における親和性が高いことも特筆すべき点である。
それでは以下で詳しく見ていくこととしよう。

①バックキャスト発想に基づく「BBCSフレームワーク」

成熟期における事業では、得てして有力な素材や技術を保有しながらも成果に結び付いていないことが多い。しかしながら成功している企業を観てみると、成熟に差し掛かる前の段階で自社の素材や技術をしっかり点検し、エンドユーザーあるいは社会の中でそれらがどのように利用されるのかという場面を先んじて想定し、アライアンス先や取引先に対峙している。
「BBCS」とは「Business to Business to Social」の頭文字である。ある技術や素材を保有する企業を例に取ると、実際に製品やサービスをデリバリーする順序で言えば、「B(技術・素材メーカー)to B(加工・流通メーカー)to C(顧客・生活者)to S(社会)」という流れになる。
このフレームワークの要諦は、エンドユーザーや社会全般(C・S)における利用場面等を先んじて想定し、そこから遡って技術・素材メーカーが事業コンセプト等を模索し、加工・流通メーカーへとアプローチするという構造である。通常のブランディングでは自社の目に見える価値(機能的価値)から順番に組み立てがちであるが、このフレームワークはエンドユーザーが享受する感覚や社会的なテーマ設定を起点に考えるという点が特徴的である(図 5)。

図5 BBCSフレームワーク:-あるbtobメーカーでの事例-

②体験デザイン発想に基づく「ユーザーシナリオ」

前述した通り、顧客の購買に関するニーズを切り取るだけではブランディングとして十分ではない。購買はユーザーの行動における一つの側面に他ならない。実際のユーザーは様々な顧客接点(タッチポイント)を通じて動機が形成され、態度が変容し、ブランドとの絆が深まっていくものである。「ユーザーシナリオ」ではブランディング・マーケティングにおける一連のプロセスに沿ってユーザーの体験全体を記述する。これにより、ブランディングのボトルネック箇所を特定し、不足する接点や自社として誘導したい体験などを設計することも可能になる。特にデジタル環境の進展により、コーポレートサイトが Owned Media(自社が保有するメディア)としての価値をますます高める中で、自社メディア内でユーザー行動が可視化される利点はこのフレームワークで大いに活かすことが出来る(図6)。

図6 ユーザーシナリオ

③エコシステム発想に基づく「ブランド提供価値マップ」

BtoB 企業の多くは様々な企業・取引先の緊密な関係の中で製品やサービスを提供している。それにも関わらず、従来のブランディングでは企業単体として提供し得る価値を創出することに血道を上げていたようにも感じられる。
ブランド提供価値を規定する過程で、企業が有する具体的な事実・特徴を積み上げながら進めることは図2 にも示した通りである。注目すべきは、この具体的な事実・特徴は“必ずしも自社のものだけではない”“技術革新やニーズの変容に応じて柔軟に変化する”性質であるという点だ。それならば、ブランド提供価値を普遍的かつ自社のエッセンスを集約した“固定”部分とエコシステム内の他のプレイヤーの力を借りて記述する“可変”部分に分けて記述してみてはどうだろうか。
頻繁に変化するサプライヤーや技術等の動向に応じて、周辺部分は柔軟に変えながらも、ブランドが約束する中核の価値は固定する。そうした狙いから「ブランド提供価値マップ」は開発された。
図 7 はとある建設事業者を念頭に記述したマップの例示である(図7)。多くのサプライヤーからのアセンブリで成立する事業の特性ゆえに、頻繁に変化する技術や素材を中核価値から一貫して見せることで、自社内はもとより関係企業間でのブランド提供価値の共有は多いに進んだ。もしも競合他社との差別化ポイントを編み出す発想だけであれば、実現できなかった記述方法だと思われる。

図7 ブランド提供価値マップ

● 成長期における企業ブランディングの方法論

本稿では多くの紙面を割いて成熟期のブランディングに対する新たな方法論の説明に力を注いできた。しかし、成長期のブランディングは変わらなくても良いのだろうか。答えは“NO”である。成長期のブランディングの発想が「(競合他社との)差別化ポイント探し」にあることは前述の通りであり、この点はいまも変わらない。
以前と異なるのは顧客からのフィードバックが極めて早いスピードで為されるようになった点である。例を挙げれば、Evernote や Dropbox などがそれに当たる。彼らはブランディングやマーケティングの活動自体にはそれほど目立った投資をしていないが、事業の根幹となる製品・サービスの改善においては圧倒的に多くの人材とお金を注ぎ込んでいる。言わば、イノベーションがブランディングそのものなのである。急ピッチでブランドを成長させるために、差別化できるポイントを即座に製品・サービスへと落とし込み、実地検証を通じて素早く修正を掛ける。差別化ポイントを高速で PDCA サイクルとして廻しているのである。
この方法論は、成長期あるいはインターネットを主たる市場にしている事業者に特有のものなのかも知れないが、プロトタイピングを通じて柔軟かつ素早く軌道修正を図るブランディングの方法論は、例えばサービス業や様々なサプライヤーを抱える事業者などの一部では採用され始めていることでもある。筆者もこのトレンドに対しては今後も注視したいと考えている。

Ⅳ.さいごに ─ ブランドの未来 ─

十年一日と言うが、企業におけるブランディング手法が世に登場して四半世紀が経過した。
ブランディングの思想も方法論も変わって当然である。本稿では「成長」「成熟」という、日本の企業が直面する 2 つのモメントに分けて、近い将来のブランディングにおける方向性について試論を展開してきた。それらを纏めたものが図8である。

図8 2つのブランディングの方法論・成長期・差別化要素ブランディング・成熟期・ラディカルブランディング

筆者はブランドコンサルタントとして 10年以上にわたり、様々な企業のブランド創りに携わらせて頂いた。その結果、上述のような発想や方法論に辿り着いたのだが、本稿で提示したフレームワークも近い将来さらなる変化を要請されるかも知れない。
しかし、一つだけ変わらない想いがある。それは企業が何故ブランディングを必要とするのか、何故ブランドが大切なのかという点である。
企業の至上命題はゴーイング・コンサーンである。太陽が照りつける日もあれば風雨の日もある。変化を続ける内外環境の中で、企業が自らのブレない軸を確立しながらも適応していく営為こそがブランディングなのだ。言い換えれば、企業が環境に適応すべく発揮する多様性こそが、ゴーイング・コンサーン(持続して生き続ける)の秘訣なのだ。成長の時期にあれ成熟の時期にあれ、多様な存在として企業が自らの宝探しを続けること、可能性を諦めないこと。多様な存在でありたい意思こそが、ブランドの未来を輝かせていく。

わたしが両手をひろげても、
お空はちっともとべないが、
とべる小鳥はわたしのように、
地面(じべた)をはやくは走れない。
わたしがからだをゆすっても、
きれいな音はでないけど、
あの鳴るすずはわたしのように
たくさんのうたは知らないよ。
すずと、小鳥と、それからわたし、
みんなちがって、みんないい。

(金子みすゞ「わたしと小鳥とすずと」)

参考文献:

  • 伊藤邦雄著「コーポレートブランド経営―個性が生み出す競争優位」(日本経済新聞社・2000年)
  • 博報堂ブランドコンサルティング著「図解でわかるブランドマネジメント」(日本能率協会マネジメントセンター・2009年)
  • 博報堂ブランドデザイン著「『応援したくなる企業』の時代 マーケティングが通じなくなった生活者とどうつき合うか」(アスキーメディアワークス・2011年)
  • マルコ・イアンシティ/ロイ・レビーン著「キーストーン戦略―イノベーションを持続させるビジネス・エコシステム―」(翔泳社・2007年)
  • ライアン・ホリデイ著「グロースハッカー」(日経BP社・2013年)
  • 金子みすゞ著「みすゞさんぽ―金子みすゞ詩集」(春陽堂書店・2006年)

(「BtoBコミュニケーション」2014年7月号 掲載)