「現場からは以上です」増加する他人ごと社員

クライアント様の企業課題を抽出するため、現場の社員にヒアリングを行う、というのが我々の仕事における基本的な初動の一つなのであるが、そこで聞かれる内容に、昨今すこし変化が出てきたと思う。現場の課題感をヒアリングする中で、個々の従業員の意識であったり視座視点の違いなどを浮き彫りにしていくのだが、この「課題」があまり出てこないのである。

課題、とは、現状と理想像のギャップである問題と、その問題を乗り越えるためのアクションと言う意味であるが、理想像があまり明確ではないのだ。理想像があいまい、というか、企業のあるべき姿の理想像にあまり興味がない、という印象すら受けることがある。
そこにはどこか他人ごとの雰囲気が漂い、企業がどうなっても自分とはあまり関係がない。かといって、いつでも外に出ていってやるよ、ということかというと、そういうことでもないようである。「オーナーシップが低い」と一言で言うのは簡単だが、この傾向はもっと根深く、影響の大きい問題につながっていく可能性がある。

 

「神は現場に宿る(っていた)」失われた現場からのイノベーション

かつて日本企業では企業と自分が一体化していた。企業を通じての社会貢献の意識は実感として感じられ、愚痴は多かったかもしれないが組織に所属していることをある種誇りに思って日々の仕事に取り組んでいた人たちがいた。(組織の中の外れ値、アウトローであろうという意識も所属意識の一パターンだ。)その結果、モノづくりの現場から世界を驚かすイノベーションが生まれてきていた。そこでは、昨今もてはやされているアジャイル型で、デザイン思考を用い、パッションを持った従業員たちが切磋琢磨していたのだと、今振り返ると言えると思う。むしろ、今の世の中で言われていることは日本企業のお家芸であって、ようやく時代が追いついてきたかと、そんなことを思ってもよいくらいである。

しかし現状は違っているようである。巷ではイノベーションを生むための思考法やフレームのハウツー本がはやり、そのようなテーマでセミナーを行えば多くの人が集まる。それだけ、現場力とでもいうものは、今の企業から失われているのだろう。古いタイプの企業人間が減ったというノスタルジーではなく、企業から失われてしまった競争力とどうやら関係がありそうだと思い始めている。

 

「事件は現場で起こっている」マネジメントは“邪魔”をするな

全ての企業や現場がそうだと言っているわけではない。いくつもの企業や、企業内の組織によっては、不思議と組織のメンバーが高いオーナーシップを持ち、共創しながらイノベーションを起こし続け、自己変革を行って成果を出しているようなケースに出会うことがある。これはある種のベンチャー企業であったりとか、大きな会社の急成長したある営業部署などでも時々見られるのだが、共通する要因の一つは、「なんだかほっとけないリーダー」の存在だったりする。

なんだかほっとけないリーダーと聞いて、三国志の劉備を想起した方もいるのではないだろうか。そう、おそらく世界的にもっとも著名なほっとけないリーダー代表格だ。(個人の認識、かつ創作含めた数点の著作の影響を受けた私見です。ご容赦下さい。)
劉備自身は武芸に秀でているわけではない。頭が切れ、先が見通せているわけではない。それらの機能は部下や、義兄弟等に任せてしまっている。だが、彼が率いた組織は最終的にひとつの国を立ち上げるという、超弩級のイノベーションを引き起こした。
彼がしたことは、「夢を語る」ことと、そこへ向かう上で個々の力量を信じ、公明正大な扱いを徹底したことだろう。それが組織の一体感を生みだした。

そんなほっとけないリーダーに率いられた組織員たちは、愛憎半ばでリーダーと接している。日々の会話の中心は困ったリーダーの話だ。いわく、リーダーにはコレが足りない、ココが欠けている。そういった会話の裏側で、じつは「だから私がそこを補う、補っているのだ」というある種の誇りのようなものが、飲み会の席で聞こえてきたりするのだ。

これは一手法であり、たまたま上手くいっているケースの話に過ぎないのだが、逆説的に考えるのであれば、いまのマネジメントは「やりすぎ」なのではないだろうか。共創しなさい、イノベーションを起こしなさいと言って聞かせれば、または目標として「自分の口から言わせれば」、それでイノベーションを生み出す組織になれるとは、到底思えないだろう。なのに、会社組織の中ではそれに類似するマネジメントが行われてはいないだろうか。特に、旧来型の「マネジメント」―管理するということは、イノベーションを現場から起こすということと、とても相性が悪いように思う。

イノベーションを引き起こすのはいつでも、夢中になる力だ。夢中で真剣に打ち込む仕事は楽しく、今までにないパワーを生むはずだ。

 

「現場の『5S』」 イノベーションを起こす鍵

従業員が夢中になり、現場から競争力がセリ上がってくるような、盛り上がってくるような企業にもう一度なるためには、何が必要なのだろうか。

必要なのは、彼らが「クリエイティビティを発揮する場として職場を選んでくれる」ことであり、その彼らが実力を発揮しきれる環境を用意することだ。それは、一体感があって活気があり、高いオーナーシップの元従業員が切磋琢磨する世界だが、そこに到達するにはどうも共通の成功の要諦があるように考えられる。私が今の時点で考えている要素は以下の5つだ(5つの”S”)。

  • 「称賛しあう」 お互いがお互いを受け入れ、否定ではなく誉める文化が根付いているか
  • 「失敗できる」 失敗が失敗として記録されない、失敗しようとする意識をつくれるか
  • 「支えがある」 従業員だけでできないことをサポートする仕組みがあるか
  • 「専門を持つ」 個々が異なる領域・知見の専門家としての立場を持っているか
  • 「信念がある」 組織体として共通で持っている価値観・ゴールがあり共感されているか

表現は大喜利みたいなものだが、大事なのはこの中に、「組織風土・雰囲気」の話と、「マネジメント・仕組み」の話、「価値観・行動理念」の話が混在していることである。さらにはこれらを実現するためには、採用・研修・人事考査・組織と言った人事面の要素に加えて、インターナルブランディングの要素も含まれてくるのである。

これが、企業組織でばらばらに検討・実施されているケースも多くあり(人事部、経営企画部、ブランド管理部、といった具合だ)、結果として個々が目指す最適が全体として全く逆の効果を生んでいることもありうる。全社を挙げての取り組みとして、現場力を取り戻すためのアクションを始めていくときなのではないだろうか。


 

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