様々な企業でコーポレートブランドを再構築しようという動きが活発化している。「コーポレートブランドの構築」とは文字通り、「企業自身をブランドと見立てて、市場や社会におけるプレゼンスを高める試み」である。企業はそれぞれの市場で製品やサービス・ソリューションのプレゼンスを高め、収益に直結させる手段を講じることも出来る。製品やサービス・ソリューションのブランドを強くする方が即効性は高いようにも思える。それなのに、なぜ「コーポレートブランド」の構築に着眼しているのであろうか。

本稿では実務としてブランディングに携わるひとりのコンサルタントの立場から、クライアント企業が何を課題とし、またコーポレートブランド再構築を通じて何を変えようとしているのか試論を展開していきたい。その中でも特に、BtoB企業がブランディングに取り組む意味合いや期待成果、取り組む上で留意すべき点など説明を施していく。
   

1.日本企業の「コーポレートブランド」への着眼

そもそも日本企業が自社のブランディングに対して熱心に取り組み始めたのは、いまを遡ること20年近く前、2000年代初頭のことである。この頃にブランディングに取り組んだ背景には何があるのか。まずは1つのグラフを見て頂きたい【図1】。これは各国の名目国内総生産(名目GDP)を比較したものである。図中で頭一つ抜け出た存在はアメリカ、2000年代中盤から急激な成長軌道で右肩上がりに伸長しているのが中国である。日本はと言うと1980年代の成長が嘘のように、1990年代中盤から2000年代前半まで大きく落ち込んでいる。いわゆるバブル崩壊後に訪れた平成不況「失われた10年」の時期である。

【図1】 GDP/国内総生産推移比較(上位5カ国)

GDP推移比較

   

さてこうした低成長時代の経済状況下で、企業の中には停滞を打ち破る画期的な手段を求める動きがあった。折しも1990年代の行き過ぎたリストラや成果主義に反省がなされ、アメリカ型の株主資本主義発想に対する日本独自の企業経営の発想が今や遅しと待望されていた。2000年代初頭の企業には自らの存在意義を再考する気運が高まっていたのである。

変化はアカデミアの側から起きた。片平秀貴「パワー・ブランドの本質」(1999年)、伊藤邦雄「コーポレートブランド経営」(2000年)、田中洋「企業を高めるブランド戦略」(2002年)など、学界を代表する教授たちが企業経営においてブランドの果たす役割を提唱し、企業の資産たる「コーポレートブランド」を如何にして育てるか力説した。尚、これらの国産ブランド戦略論の背景には、第一人者のデービッド・アーカー(カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール名誉教授)が企業ブランド経営に関する理論体系を築いていたことも少なからず影響していたものと思料される。

さて、そろそろ本題に移ろう。それでは「コーポレートブランディング」とは一体何か、どのような意義や役割があるのか。次項で見ていくこととする。
   

2.「コーポレートブランディング」の考え方

「ブランド(brand)」の語源が、放牧していた牛のわき腹に「焼き印を押す(burned)」行為に由来している話はつとに有名であろう。いにしえのヨーロッパでは、自分が飼育している家畜と他人の家畜とを間違えないように焼き印を押して区別したと言う。遠くから印を見ただけで一瞬にして自他を区別できる。すなわち、ブランドの原点は「識別化」であり「差異化」である。これは対象が企業であっても変わらない。顧客はその企業の名前なりシンボルマークを見ただけで、「自分のどのようなニーズに応える企業なのか、他の会社と何が違うのか」を瞬時に判断できるようになる。そのうちに顧客と企業の間には絆が形成されるようになる。

コーポレートブランドとはただの商標を指す訳ではない。その企業の有形無形の様々な活動を通じて顧客から期待を集めることであり、その期待に応えることで、顧客との間に産まれる信頼関係を指す【図2】。コーポレートブランドとは「ありとあらゆる企業活動を通じて形成された顧客との約束」なのである。ゆえにコーポレートブランドを構築するということは、名称やシンボルマークを制作するには留まらない。例えば、製品やサービス、コーポレートサイトやコールセンター対応、営業スタッフの接客など、顧客が享受するあらゆる要素を通じて、顧客との絆を形成する試みなのである。

【図2】「コーポレートブランディング」で目指すもの

「コーポレートブランディング」で目指すもの

 

コーポレートブランディングでは、蛸壺化しがちな各事業部門や機能部門の活動を有機的に結びつけ、企業全体としてマーケティング・コミュニケーションを実践していく姿勢、各事業活動を束ねることが肝要になる【図3】。この各事業活動を束ねる中核の概念こそ「顧客との約束」である。これは別名「ブランド提供価値」とも呼ばれる。2000年代初頭の日本企業で自らの存在意義を再考する気運が高まったことは上述したが、多くの企業では社内を巻き込みながら、コーポレートの「ブランド提供価値」を創り上げていったのである。

【図3】事業活動を束ねる「ブランド」の重要性

事業活動を束ねる「ブランド提供価値」

 

ここまでは「コーポレートブランド」とは何か、その背景から基本的考え方、主要な取り組み内容まで見てきたが、次項では特にBtoB企業におけるブランディングの必要性や取り組む上での勘所について考えていきたい。
   

※本コラムは、一般社団法人日本海運集会所(http://www.jseinc.org/)発行の総合物流情報誌『KAIUN(海運)2017年7月号(No.1078)』に掲載された寄稿記事「BtoB企業におけるブランディングの意義と可能性」の内容を転載しております。

■「BtoB企業におけるブランディングの意義と可能性」連載(全2回)