商品価格を上げることは企業の収益力向上に大きく貢献するが、それが簡単にできれば苦労しない。一方で「こだわりのあるモノなら高くても買う」という消費者も確実に存在する。
彼らはどんなポイントにこだわり、どういう理由で財布の紐をゆるめるのか?

稲盛和夫氏は『高収益企業のつくり方』という著書の中で、「商売の秘訣はお客さまが納得して、喜んで買って下さる最高の値段を見抜き、その値段で売ること。値決めは事業の死命を決する重大な判断である」と論じています。また、マッキンゼーの分析によれば「グローバル1200企業で、価格を1%上げると営業利益は11%も上昇し、変動費や固定費のカット、売り上げ数量の拡大に比べ、営業利益に対してはるかに大きなインパクトを及ぼす」という結果が出ています。企業が利益を拡大していく上で「値決め」が飛び抜けて強力な手段であることは、読者の皆さんもご認識があるところでしょう。

ところが、一般的な中小企業の経営者の心理としては、「大手小売や大手メーカーの値下げ圧力は厳しい。原材料が高騰するなか、価格は上げたくてもなかなか上げられない……」「価格を上げて顧客が離れてしまわないか心配だ……」というところが本音ではないでしょうか。

価格の上昇は収益に対して大きなインパクトがあります。しかし、価格を上げることはそう簡単なことではないのです。

「バリューチェーン」の中で価格決定権を握っているのは誰か?

一度、貴社が扱っている製品の「バリューチェーン」の全体像を考えてみてください。最終的に顧客に製品が届くまでの中で、誰が価格決定権を握っているでしょうか。

家具・インテリアや日用品などを扱う生活関連産業を例に考えてみましょう。戦後のように市場に出回っている物量が少なく、物を「所有」することが重要だった時代、価格決定権を握っていたのはメーカーでした。その後、広くあまねくモノを届ける卸業者や量販店が価格決定権を握ります。スケールメリットを追求する卸業者や量販店は安さを追い求め、アジア諸国からの輸入品は年々増加。製品の価格は低下しました。

しかし、モノの選択肢が豊富になり市場が成熟すると、単に安いだけでは消費者の欲求を満たせなくなります。ここで登場してきたのが「無印良品」「Franc franc」など、「ライフスタイルショップ」と呼ばれる業態の企業です。

ライフスタイルショップはたくさんあるモノの中から、ある一定の価値基準で製品をセレクトすること、そして、魅力的な生活シーンを提案することで消費者から支持されてきました。現在ではその企画力を武器に、単純にセレクトするだけではなく、国内・海外のメーカーを巻き込み自社企画製品を積極的にOEM生産するようになっています。

これはあくまでも生活関連産業での例ですが、どの産業でもいえることは、価格決定権を握っているのは「その時代その時代で消費者に対して最も価値を提供している企業」だということです。

貴社が戦っている市場において、最も価格に対して影響力を持っているのは誰でしょうか。それが自社でない場合、自社が価格決定権を握るためには何が必要なのでしょうか。ここでは、価格決定権を握るヒントを得るため、現在の消費者意識を紐解いてみたいと思います。

「高くても買う」という消費者心理

経済産業省が実施した消費者意識調査では、「自分のこだわりのあるモノについては、7割以上の人が多少高くても購入する」と答えています〈図表1〉。

[図表1] 商品購入におけるこだわり意識

バブル崩壊以降、100円ショップや100円バーガーの登場など、安さこそ重要という流れが強かったことは事実です。しかし、現在の多くの消費者は、こだわりがあるモノには多少の出費はいとわないと答える状況になっています。

この調査では、こだわりのあるモノについては多少高くても購入すると答えた人の割合が多く、そして調査対象も世帯年収400万円未満から2000万円以上まで幅広く存在しています。これは、よく言われる富裕層と低所得者層という消費者の二極化というよりも、1人の消費者の行動の中でも二極化が起こっている状況の表れと考えることができます。自分がこだわりを持つモノなら多少高くても買う、一方でこだわりのないモノはとにかく安く済ませる、というのが現在の消費者の感覚なのではないでしょうか。

例えば、高級ブランドバックを持って100円ショップに行く人がいるように、こだわりの無いモノは安く、こだわりがあるモノ/価値を認めるモノには相応のお金を払うという意識が存在するのです。

また、昨今、プレミアムビールやプレミアムアイスが流行っていますが、これは、同じ消費者がオケージョン(場面)で消費を使い分けている状況の表れといえます。良いことがあった日やちょっとくつろぎたいとき、自分へのごほうびとして、通常と比べて価格が2~3倍するようなプレミアムビールやプレミアムアイスを購入してもよいと思う、そんな意識潮流が確かに存在しているのです。

こだわり消費者が重視するのは何か?それにどれだけ多く支払うのか?

前出の消費者意識調査では、こだわりをもっている商品についての重視要素、そして、重視要素別の「価格プレミアム」(どれだけ多く支払うか)も確認しています。

図表1の回答別に、真性こだわり消費者/こだわり消費者/非こだわり消費者を定義し(※)、商品購入時の重視要素を比較すると〈図表2〉、「デザインの良さ」「コンセプトの独自性」「商品の希少性」において重視度合いの差が顕著になっています。

[図表2] こだわり消費者と非こだわり消費者の重視要素比較

一方「品質の良さ」「機能性の高さ」といった要素はこだわり消費者も非こだわり消費者も両方が重視しており、商品が必ず満たさなくてはいけない基本的価値と考えることができます。

「こだわりがあるモノなら多少高くても購入する」という消費者意識に応えるには、品質・機能性という基本的価値(機能価値)に加え、デザインの良さ・コンセプトの独自性・商品の希少性といった消費者の感性に訴えかける要素(感性価値)を持つことが重要な要因となっているのです。

また、商品購入時の重視要素別に、「その要素が際立っている場合にどの程度多くお金を払うか?」という価格プレミアムを見ると〈図表3〉、真性こだわり消費者で「3~5割高くてもよい」「6割以上高くてもよい」の割合が多いことがわかります。特に、品質の良さ・機能性の高さ・デザインの良さが際立っている場合に、3割以上高く支払ってもよいという認識の人が多い状況です。

[図表3] 重視要素別の価格プレミアム

大量生産大量消費の時代は終わりました。市場は成熟し、世界でも最も目利きであるといわれる日本の消費者は、単純な価格訴求ではモノを選択しなくなりつつあります。また、安いモノをたくさんつくるビジネスモデルでは、労働力の安価なアジア諸国の競争優位性は揺らぎません。そのため、「安さ」で競争するのではなく「価値」で競争することが求められています。そして、価値とは、明確なコンセプトとそのコンセプトを反映した品質・機能・デザイン・希少性などの融合体と考えることができます。

たくさんのモノに囲まれ、選択肢がこれまで以上に豊富な現代の消費者は、価値を感じれば多くのお金を払う人々なのです。消費者に支持される高付加価値化こそ価格決定権を自社に取り戻す戦略であり、企業が生き残る道だといえます。

「価格プレミアム」実現のポイントは価値の明確化と伝達にかかっている

価格プレミアムを実現する上で重要なのは、その価値を消費者が知覚できるようにすることです。「こんな工夫があります」「ここにこんなこだわりが」といっても、その工夫やこだわりを知覚できなければ消費者にとっての価値とは成りえません。さらに、その工夫も「ひとつ工夫があります」というのではなく、「こういう思想のもと、このような工夫をしています」という一連の物語で伝えるほうが、インパクトがあります。

消費者の頭の中は一定容量を持った箱のようなものだと考えてください。世の中にあるたくさんの製品がその箱の中の陣取り合戦をしています。消費者のマインドシェアをいかに奪えるか。高い価格であるならば、高いだけの理由が必要であり、その理由を消費者が知覚できないといけないのです。自社の付加価値を消費者に支持されるに足るひとつの物語にできるかどうか――実際に高い値決めを行えるか否かは、この物語の優劣がポイントになります。

「ブランド」という言葉を聞くと、ルイ・ヴィトンやエルメスなどの欧米の有名ブランドを思い浮かべる方も多いと思いますが、ブランドの本質は企業や製品の名称ではありません。「そこにどのような思想が存在するか(コンセプト)」、そして「その思想を何で具体的に表現しているか(品質・機能・デザイン・希少性など)」ということであり、それらを伝えた結果として消費者が知覚するものがブランドなのです。

また、消費者が価値を知覚しやすくするためには、思想を製品に反映するだけではなく、消費者との接点を思想に沿ってチューニングすることも非常に重要になります。具体的には、製品パッケージや広告宣伝活動、さらには店舗(販売チャネル)や販売員の対応など、消費者との接点すべてが価値を伝達するポイントとなり、これらの接点から消費者は価値を知覚するのです。

より効果的に消費者のマインドシェアを奪うためには、これらの顧客接点を思想に沿ったかたちでチューニングすることも重用なポイントとなります。

参考文献:

  • 稲盛和夫 高収益企業のつくり方 日本経済新聞社出版局(2005/03)
  • 首藤明敏 値決めが価値を決める 日刊工業新聞ブランド経営時評(2007/03/19)
  • 経済産業省製造産業局日用品室
  • 生活関連産業(日用品)の高付加価値化に向けた提言(2007/01)
  • 生活者の感性価値と価格プレミアムに関する意識調査(2007/01)

博報堂ブランドコンサルティング 代表取締役社長 首藤明敏
博報堂ブランドコンサルティング プロジェクトマネジャー 篠原光義

(2008年4月10日 中計出版「JPNマネジメント」掲載)