「グロースハック」とは何か。 その概念の基本的な部分を理解する

グロースハッキング、グロースハッカーという概念は、シリコンバレーのネットベンチャー、Qualaroo社CEOのショーン・エリスによって、職種の名称として名付けられたことが由来です。「成長」を意味するGrowth、そして「開拓」を意味するHackを組み合わせた、文字通り「成長を迅速に成し遂げるためのアプローチ」を指す造語であり、日本でもその概念は、昨年後半からの関連書籍の発刊や雑誌での特集などをきっかけに、徐々に認知が進んでいます。 グロースハックの定義は様々ありますが、我々としてはこれを「広告等に代表される大規模な投資を前提としない、分析的または創発的に導き出した、企業やサービスを急速に成長させる“トリガーアクション”またはその実施のこと」という様に定義しています。実は、私たちが知っているWebサービスの多くは、このグロースハックの手法を取り入れて急成長してきました。例えば、無料メールのHotmailは、スタートアップ直後からすべてのメールの末尾に「Hotmailで君も無料メールをゲットしよう」という1行を入れたことがきっかけで、ユーザー数を爆発的に増やしました。またfacebookは、登録初日に7人以上と友達になってもらうと、継続率が跳ね上がることがわかり、その状況を最初から作るような仕掛けを講じていると聞きます。これらは、いわゆる「トラディショナルなマーケティング戦略」の策定プロセスからは出てくるものではありません。しかし、それぞれのサービス成長に決定的な影響を及ぼしたこともまた事実であり、マーケティング戦略における「亜流的方法」であると片づけることもできません

トラディショナルなマーケティングと「グロースハック」の違い

いわゆる、トラディショナルな「マーケティング」との違いを問われることも多くあります。当然のことながら、マーケティングの概念は非常に深く、簡単な絵柄で説明することは難しいですが、グロースハックという新しい概念との比較をするためにわかりすく図解すると、例えばこのように表現されます。

図1_GrowthHacking

 

実はこの発想の違いは、戦略論でよく比較される、現代マーケティングの考え方の素地になったともいわれているジョミニの「戦略的計画」と、クラウゼヴィッツの「戦略的直観」の違いに非常に近いのではと個人的に思います。非常にざっくりと整理すると、「戦略にはセオリー、定石がある。現在地点と目標値がわかれば、その定石通りに直線的に進むべし」という思想と、「似たような戦局にみえても、一つ一つの状況は異なる。その戦局を勝ち抜くための“攻略点”を攻めよ」という思想の違いに近いということ。特に「戦略的直観」、そしてそれを導くための方法とは、グロースハックのそれとほぼ重なります。当時から今に至るまで、世界中で評価され続けてきたこの概念ですが、実は表現が変わっただけで本質的には全く同じことを指しているのかもしれません。

 図2_GrowthHacking

 

このユニークな概念がビジネス全般に拡がっているかというと、現状では上記の例で示したネットビジネスにのみ適応されるものとの見方が一般的で、それ以外の、所謂リアルビジネスにまでには到達していません。これは出自を考えると当然ではありますし、また様々なアイデアを即座に試し、検証することができるWebサービスこそ、最もこの概念が適応される分野であることは間違いありません。ただ、グロースハックのエッセンスを一つ一つ見てみると、そのエッセンスはWebサービスに限り適用されるものではなく、オンサイトのビジネスにも適応可能なものが多いのです。

何故、今の時代に「グロースハック」という概念が求められるのか

では、何故そのような発想やアプローチが必要であり、且つ有効であると考えるのか。代表的な理由としては大きく3点あります。

  • 選択できる「打ち手」が、現実的に限られていること

経営資源が限られている状況が多い中で、4P全てに投資できるケースはそもそも少ないのが現実。中でも、何が最も波及効果を生むか。こういう視点が現場ではいつも求められる

  • 新しい方法論が極端に増加していること

日々新しい手段が生まれている今般、その情報を取り込んだ進め方でないと抜け漏れる。マーケティングの4Pの垣根が低くなり、全てを包括的に捉えた視点が必要

  • 環境変化スピードが高速化していること

総論的な戦略構築に、たっぷり時間をかけている間に、すぐに環境は変わる。新しい方法論を踏まえてリーンに立ち上げ、運用の中で改善を繰り返していくことが必須

以上述べてきたことは、ブランディングやマーケティングを専業とするコンサルティング会社に長年努め、最前線でやってきた私自身の実感でもあります。教科書的な手順論に基づいた「戦略策定」に、多大な時間とコストをかける時代は終わり、今の時代に即したアプローチが必要であると、個人的に考えています。さて皆さんは如何にお考えでしょうか? このシリーズは、全6回を予定しております。次回以降、我々が考えているグロースハックの考え方について、よりわかりやすく皆様にお伝えし、皆様のビジネスにも適応していくためのフレームワークを、それに基づく様々な事例と共にご紹介していきます。

 

[参考文献]
・「戦略は直観に従う ―イノベーションの偉人に学ぶ発想の法則」 ウィリアム・ダガン著(2010/9)
・「グロースハッカー」ライアン・ホリデイ著 (2013/12)
・「リーン・スタートアップ」エリック・リース著(2012/4)
・「グロースハック 予算ゼロでビジネスを急成長させるエンジン」 梅木 雄平著 (2014/3)

 

連載バックナンバー