京都造形芸術大学 芸術学部芸術教養学科 准教授・デザイナーの早川克美さんのインタビュー連載第2回です。(以下敬称略/全4回)


第2回 「らせん的思考」の有効性

1. 「デザイン」とは?

楠本: デザインと言っても、その意味は幅広く、定義も様々かと思うのですが、早川先生が考えるデザインの定義とはどういったものでしょうか?

早川: 一般的には、デザイナーが手を下したものが「デザイン」だと思われている方が多いと思うんです。

楠本: まさにそれが通念かと思います。

早川: でも、一般の方でも、何かを作ったり、何かを実行しようと思った時、例えば、お料理を作る時、旅の計画を立てようと思った時など、自分の頭の中で構想して、そしてそのイメージを膨らませて、時にはメモを取って、シミュレーションして具体化していきますよね。そのプロセスは、デザインのプロセスそのものなんです。皆さん本当は生活の中でデザインに参加している。人間の意図したものは全てデザインの成果だと、私はすごく広く捉えています。意図して得た成果は、デザインが関わっていると思っています。

またデザインというものは、社会や産業の要請によって、時代ごとにその概念を変えてきています。昔、大量消費・大量生産の時代は、効率重視の中でデザインはその役割を担ってきた。そして差別化が求められるようになった時は、表層的なデザインがその差別化に協力した。今日、デザイン思考が求められるようになったのは、様々な問題が複雑に絡み合って、一つの問題が一つの原因によるものではないという時代になった時、デザインを考えていくプロセスそのものが、実はその問題解決のために非常に有効なのではないかという仮説から始まっているのだと思います。

今、社会から要請されている「デザイン」とは、大量生産の時代のデザインとは全く異なる、ある目的を持って課題を解決するための思考のプロセスをいうのではないかと私は考えています。

楠本: 日々いたるところで、何らかの問題が起こり、それを解決しようとしているわけですが、全てデザイン的なプロセスで解決されているかというと、そうでもないと思うんです。9割近くは、デザイン的ではない方法が取られているのではないかと思うのですが、デザイン的に問題を解決していくことと、そうではない問題解決の方法、その違いはどのようなことだと思われますか?

早川: 私自身、出自がデザイナーなので、デザイン的ではない考え方をしたことがなく、正直よく分からないのですが…。おそらくデザイン的ではない考え方というのは、その問題に対して、非常に直線的に解決しようとすることなのではないかと思います。デザイン的なものの考え方というのは、ある問題に対し、果たしてそれが本当の問題なのかという問いから始まります。見えている問題ではなく、もっと潜在的な問題があるのではないかということを解きほぐすところからスタートして、それを解きほぐした後、今度は絞り込むという段階があって、さらにもう一度本当の問題を絞り込んだ後、それに対する解決策を実際に視覚化していきます。そして考えた解決策をシミュレーションし、また問題に立ち返って、果たしてその解決策が問いに正しく答えているか検証するという作業を、ループを描きながら繰り返していく。そのプロセスがデザイン的な考え方です。検証という作業を行わない解決方法ももちろんあると思うのですが、仮説をもって検証し、またもう一度戻って再度仮説を立てて検証するというその「らせん的な思考」が、デザインのプロセス、デザイン思考そのものだと思っています。

 

2. 「アート」と「デザイン」の違い

楠本: 例えばグラフィックデザインだったり、彫刻や絵画など、デザインとは狭義ではやはり芸術作品を連想するのですが、そのプロセスにはやはり「らせん的な思考」が働いているのでしょうか?

早川: アートとデザインはまた違うんですね。アートというのは、「社会に問いを作る創造行為」なんです。一般の人たちが当たり前だと思っていたこと対し、「何で?」「何でそう思うの?」と問いを投げ掛けるような作業がアートなのではないかと思っています。
それに対してデザインは、「問いに対する答えを出してあげること」だと思います。ですから、アートとデザインは、「表現する」という意味では同じなのですが、社会に対する働きかけに違いがあるんです。

楠本: すごくわかりやすいですね。例えば、温室効果ガスの削減を目標に実施された「チーム・マイナス6%」プロジェクトや「COOL BIZ」運動。国民が簡単に参加できる方法を提示して、大きなムーブメントになった好例かと思うのですが、それはデザインでしょうか?

早川: はい、それはデザインですね。答えを示してあげるわけですが、それをより参加しやすい形で受け手に対して視覚化=示してあげたというところがデザインなのだと思います。

楠本: 芸術作品を作るという狭義のアートではなく、ビジネスの現場や産業界で様々なことが起きている中で、先生がこれはアートだなと思うことはありませんか?

早川: 一昨年、私の友人が松山の道後温泉でアートのイベントを企画しました。道後温泉の旅館からそれぞれ一室ずつ提供してもらって、その部屋をアーティストが丸ごと改装してしまうという企画です。つまり部屋をアート作品にするんです。でも、訪れた人がその部屋をただ見て回るというだけではあまり面白くない。そこで、ウェブ上に「HOTEL HORIZONTAL」という架空のホテルを作って、全室を宿泊予約できるようにしたんです。全て違う旅館だけれども、その提供したアートの部屋だけがつながっている架空のホテルを作って、その架空のホテルをお客様に泊まり歩いてもらうという内容なのですが、それはアーティストはもとより、旅館やそのホテルに泊まる人たちも巻き込んだアートだったわけです。

道後温泉の旅館にとってみると、1軒1軒はそれぞれライバルだったわけですが、その統合された架空のホテルによってすごく親近感が生まれて、道後温泉を一つにまとめていこうという機運が高まったそうです。最初は自分の旅館の一室がアーティストにぐちゃぐちゃにされるということに、旅館側はすごく不安を覚えていたそうです。草間弥生さんの部屋があったりするわけですから。でも結果的に、それによって旅館の方々の意識も変わったわけですよね。そのアート作品たちが、その行為が、街に対して、旅館に対して、そして訪れるお客様に対して「問いを投げかけている」という意味で、非常に面白い企画だなと思いました。

楠本: 投げかけられた問いとは何でしょうね。いろいろな問いがありますね。今も運営されているのでしょうか?

早川: 旅とは?観光とは?おもてなしとは?など、さまざまな問いがみつかりそうですね。2014年いっぱいの期間限定だったそうですが、一部延長して公開されている作品もあるようです。

 

3. 今求められる「らせん的思考」

楠本: 先ほど、直線的ではなく、仮説を出して検証してまた戻って…とらせん的に進めていくやり方がデザイン的なアプローチだというお話がありましたが、今そういったデザイン的なアプローチが必要とされてきているのは、それぞれの問題が複層化しているのが一番の理由でしょうか?

早川: そうだと思うのですが、どうでしょう?

楠本: 今だからこそデザイン的なアプローチが必要ではないかと、個人的にはそんな感じがします。

早川: 少し違うかもしれないのですが、例えばグラフィックデザイナーは、昔はポスターを作っていれば良かったわけですよね。でも今は、様々なメディアが生まれ、ポスターのみでは情報伝達という意味では不備なわけです。ウェブもありますし、もちろんテレビもあるわけですから。

楠本: 昔より今の方が、一つひとつの事象の関係性が強まっている。メディア然り、常に越境を意識して統合的にデザインしないと、別々に考えていても解決できない時代になっているんですね。

早川: そう思います。

楠本: 我々の仕事は、企業の理念やブランドのコンセプト・考え方を作るお手伝いをすることが多いのですが、直線的に作る方法もあります。例えば、調査を実施して反応値がいいものを選び、それを集約してコンセプトにする。そのコンセプトを具現化するためのマーケティング施策を考え、最後に広告をデザインする。まさに、フィリップ・コトラー氏の「マーケティングの4P」ですね。それってすごく直線的なのですが、ただある人はそういうコンサル型のプロセスではなく、常に仮説があって、このコンセプトがあるとどんな施策になるのかとか、どういうクリエイティブになるかを意識していて、まさに仮説と施策を行ったり来たりしながら、実効性のあるものにまとめていくやり方をしていました。

早川: らせん的ですね。

楠本: それはデザイン的思考と呼んでいいのでしょうか?

早川: そう思います。それから、らせん的なプロセスを繰り返すことで、そのプロジェクトに参加している人たちの意識共有が図れるという側面もあります。一方通行、直線的なものだと、途中で落ちてしまったアイディアは、検証の機会がないままになってしまうので、みんなで作ったという感覚にはなり難いんですね。

複雑な問題をたくさん抱えている今日、少人数でやるプロジェクトは少ないですよね。昔は非常に大きなプロジェクトも、少人数でやっていたりしたわけですが、今はそういうことはできない。様々なスペシャリストと組まないと解決できないことが多い中で、意識共有を図って組み立てていくというプロセスは、やはりらせん的にならざるを得ないのではないかと思います。

楠本: そうですね。短期間では関係性を作りきれないので、必然的にそうなりますね。その中で、少しずついろいろな人の重なりが見えてきますし。

早川: そうそう、そうなんです。そういう意味で、コラボレーションの時代には、このデザイン思考のプロセスがすごく有効だと思います。

―「デザイン思考のすすめ―第3回:『ユーザー中心主義』と『デザイン主導主義』の有効性」に続きます


■デザイン思考のすすめ ― インタビュー連載 (全4回)


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京都造形芸術大学 芸術学部 芸術教養学科 学科長 准教授 早川 克美 氏

武蔵野美術大学卒業。東京大学大学院 学際情報学府修了、修士(学際情報学)。
「人と情報」・「人と空間」の適切な関係を構築するデザイナー、「学びを支援する環境をどのようにデザインすれば有効なのか」をテーマにした研究者、そして「身の回りの環境を常に新鮮な目で捉えるデザインの感性・知性を育む学び」を支援する教育従事者としての3つの活動の有機的な連携に取り組んでいる。2004年グッドデザイン賞金賞、2007年JCDデザインアワード審査委員特別賞、FUSION MUSEUM KNIT × TOY(2007・SDA賞サインデザイン賞)、SHINJUKU PICCADILLY INFOMATION PROJECT(2009・SDA賞サインデザイン優秀賞)