3.アセアン市場の攻略に苦しむ日本企業

日本企業は、戦後の壊滅的な状況から奇跡的な経済成長に成功し、特に、自動車、家電製品、精密機器などにおける、「モノづくり」がカギとなる産業においてカテゴリーリーダーとしての地位を確立しました。1979年に”Japan as No.1”という本が出版され、ジャストインタイムなどの日本独自の経営手法が欧米企業に積極的に取り入れられました。

これが、1990年代に入りバブル経済が崩壊すると状況が一変します。約20年にわたり低成長とデフレーションが続く中で、震災などの不運も重なり、日本企業の存在感は薄れていきました。特に、最近数年間においては、世界市場において韓国、台湾、中国企業が急速に成長する一方で、日本の大手企業はマーケットシェアを奪われる状況が多く見られます。

一方で、欧米のグローバル企業のアジア市場における成長も堅調です。アップルやグーグルなどのIT・インターネット革命の旗手とも言える企業の成長は、この10年で特に顕著であり、日本企業最大の株式時価総額を誇るトヨタ自動車の数倍を超える評価を得る会社が数十社も存在しています。食品やトイレタリー等の日用生活品カテゴリーにおいても、欧米企業のブランドがアジア市場に幅広く浸透している中で、日本企業は、必ずしもアジア市場の成長を十分取り込めていません。

4.日本企業の成功と混迷を歴史から探る

日本のGDPは、60年代は毎年10%成長を続けており、この当時の一人当たりGDPは約US$4,000でした。これは、中国の2010年頃とほぼ同じ水準です。この時代の日本企業は、「低賃金を強みとする労働集約型産業におけるローコスト戦略」から、「組織的な品質管理による高付加価値戦略」へとシフトし始めた時期でもあります。当時、研究開発力で圧倒的優位を築く「プロダクトイノベーション」の得意な欧米企業に対して、日本企業は生産管理、品質管理などの「プロセスイノベーション」により成功したと言えます。

そして80年代以降になると、日本企業も研究開発投資を増強し、自ら「プロダクトイノベーション」を生み出し、市場を創造することで成長の果実を得るというパターンに転換していきます。VHS, CDなどのAV機器やゲーム機などで、新たなデファクトスタンダードを生み出していくことで成功しました。

これが2000年代に入り、デジタル化、ネット化が進む中で、ソフトやサービスの重要性が増大し、ハードの開発もモジュール型の部品を組み合わせるタイプの商品が増える中で、世界を代表する製造企業となったアップルや韓国企業が急成長した理由は、「デザインイノベーション」で先行しています。

さらに、もう一つ忘れてはならないのは、アジア市場が、変化が激しく多様な市場であるという特徴です。この多様なアジア市場で成功するためには素早く、ちょうど良い水準で、臨機応変に対応していく体制が必要です。この点も、組織がタコつぼ化して、意思決定が遅くなりやすい日本企業においては、大きな障壁となります。

5.アセアンでの組織運営で必要となる明確な意思決定方針

アセアン市場では、日本人と同じアジア人とは言え、文化・宗教・風土・気候などが様々であり、ビジネスに対する姿勢や考え方も大きく異なることを改めて実感します。日本においては、暗黙の了解の上で進めていけたことが、アセアン市場では大きな方向性を明確にしていくことが求められます。具体的な事例をご紹介します。

現地法人主導 VS 本社主導

各国のローカル拠点が市場の環境に合わせて、独立した企業として現地に根ざしていくことは、ウェットな人脈も重要なアジア市場では大切なことです。特に、現地の雇用を活用する生産活動、現地の卸・流通業者との関係を取り持つ営業活動においては不可欠です。

一方で、ブランディングにおいては、現地法人主導だけではうまくいかないケースが散見されます。製品には急激に成長を遂げるタイミング(オピニオンリーダーから大衆層に転移するポイント)に、欧米企業、韓国企業に大量の広告販促投資を投下され、マーケットシェアを奪われることがあります。これは、ローカル拠点広告販促投資額が、拠点内の過去の実績に基づく来期の収益予算の中で決められてしまい、中期的な視点で投資配分するという発想になりにくいからです。

これを解決するためには、本社が主導となり、各市場での状況を俯瞰的に把握しながら、広告販促投資を大胆に配分することが必要です。

一貫性重視 VS 個別化重視

グローバル市場での戦略を検討する際にもう一つ議論になるのが、世界共通の機能、サービスレベル、ブランドイメージで展開すべきという一貫性重視の思想と、多様な市場に体操するために、機能もブランド名もイメージも独自で展開しようという個別化重視の思想です。

全般的にFMCGなどの生活に密着した製品は個別化重視で、耐久財については一貫性重視という方向性はあると思いますが、全体的な日本企業の傾向として、個別化重視でローカル拠点に任せるというケースが、欧米企業等に比べると大きいと感じます。

個別化を進めすぎると、製品開発や広告販促の開発費が膨らむのはもちろんですが、グローバル社内での組織的な学習が進まないため、変化の激しい新興国市場における面としての対応力が高まり難いという問題点があります。

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