年々注目度を高める「サロン・デュ・ショコラ」

今年の2月、パリ発のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」が東京国際フォーラムで開催された。日本におけるサロン・デュ・ショコラは今年で15回目を迎え、今回は『La La La ChocoLat! あなたと、ショコラと、人生と。』をテーマに、世界約17カ国から約100ブランドが出店した。このイベントでは、チョコレート自体ではなく、チョコレートの作り手にフォーカスするという視点の転換が非常にユニークな点である。

確かにここ最近、チョコレートをはじめ、パンケーキ、クロナッツ等、新たなスイーツをよく見かけるようになったが、日本における菓子市場(飴菓子、チョコレート、せんべい、ビスケット、和/洋生菓子、スナック菓子等)の推移をみてみると、2010年時点の3兆2,080億円から2015年時点で3兆3,339億円とここ数年伸びている。特に、チョコレート市場は約4,180億程度だったところから約5,040億までに成長し、菓子市場の中でも最も多くの売上高を誇る市場なのだ。[*1]

その流れも受けてか、日本のサロン・デュ・ショコラも年々来場者数を増やし、本物・高級チョコレートを求める生活者に支えられて、今や10万人以上を集める大規模イベントに成長している。本場パリのサロン・デュ・ショコラは1995年から「展示見本市」としてスタートしたが、日本では三越伊勢丹グループ(当時の伊勢丹)が「催事イベント」のひとつとして手掛けたのが始まりである。

三越伊勢丹というと、百貨店業界における近年の業界再編の波を受け、業界大手の三越と伊勢丹が合併したことは我々の記憶に新しい。百貨店はかつて、高度経済成長期やバブル期に時代の先端を走り、大衆消費を先導する立場にいながらバブル崩壊と同時に凋落していったが、サロン・デュ・ショコラに見られるように、近年、再復活を遂げるべく地に足の着いた取り組みを展開している。
  

百貨店の価値とは?

百貨店は高級品から大衆向け商品まで幅広く扱う小売業として、さらには屋上に大型遊具を配置するなど家族連れで楽しめるレジャーランドとして、1960年代頃に大きく勃興した。その後もバブル景気に後押しされる形で、大衆の高級ブランド品の買い物の場として依然、存在感を保っていた。しかしながら、バブル崩壊後の百貨店各社は、同業他社・他業態の競争に打ち勝つため、また低調な業績を少しでも巻き返すため、利益率の高い衣料品・高級品に傾倒し、一方で費用削減のために人員整理を実施するなど生き残りをかけて必死にもがいた。”高級品”を扱うに相応しいハイクオリティな顧客サービスを享受できる体験も百貨店が生活者に選ばれている理由であったハズだが、バブル崩壊とともに単なる「ハコ貸し業」と化した百貨店の価値の源泉はこの時既に枯れていたといえよう。

さらにアパレル業界におけるbeams/united arrows/shipsなどのセレクトショップの台頭、およびUNIQLO/H&Mなどのファストファッション文化の浸透といった外部環境が追い打ちをかけ、そしてスマートフォン・SNSの浸透という情報革命の駄目押しによって、百貨店がかつて持っていた”目利き力”に対する相対的な信頼低下は確実なものとなった。百貨店で扱っているという事実(以前であればステータス)よりも、有名な人気モデルがInstagramでオススメしているという方が、情報としての価値および商品に対する信頼度が高い時代になったのである。
  

三越伊勢丹が提示する“本物”への回帰

そうした中、三越伊勢丹が合併した2011年からCSR活動の一環として掲げ、2015年に企業理念の実践に向けた企業メッセージへと進化させた「this is japan.」は、これからの三越伊勢丹を上向かせる指針となるに違いないと思わせる。

『基本に磨かれて、信頼でかがやく。-大切なことはいつも変わらない-』 [*2]

タグラインとして据えた「基本」「信頼」とは何か。百貨店の「基本」とは、カスタマー1stでブランドを横断して質の良い品々を並び立てられる目利き力であり、日本古来のおもてなしの如く行き届いたサービスであり、genuine(本物の)な商品を取り扱っているという「信頼」によって百貨店はその存在が肯定される。モノが溢れ、情報が氾濫するこの時代において”本物”を扱うということは、本物を生み出す作り手が生活者から見えるということがひとつ大きなドライバとなる。だからこそ、作り手にフォーカスしたサロン・デュ・ショコラのようなイベントに改めて注力しているのであろう。それは大量生産・大量消費の時代を超えた現代の顧客の大きなインサイトを捉えている。

基本を磨き、本物を提供し、信頼を得る。それはとどのつまり、日本企業が、日本人が共通に持つ根源的思想に他ならない。そこで自問自答したい。我々が磨くべき基本とは、得るべき信頼とは。2020年、半世紀ぶりに東京でオリンピック・パラリンピックが開催される。否応なく、これから時代は東京、日本だ。this is japan.-この誇りを持って世界に見せつけてやりたい。日本の経済の根幹を支える中小企業が、世界に向けて。

【参考】

*1) e-お菓子ねっとHP http://www.eokashi.net/siryo/siryo08.html
*2) 三越伊勢丹HD特設ページ「this is japan」 http://this-is-japan.jp/

 

※本コラムは、スルガ銀行グループ 一般財団法人企業経営研究所(http://www.srgi.or.jp/)発行の季刊誌『企業経営 2017年春季号』(No.138)に掲載された連載「最近のビジネス・コンシューマートレンド」の内容を転載しております。

 

■最近のビジネス・コンシューマートレンド ― 季刊誌『企業経営』掲載記事