音楽・映画・テクノロジーの祭典「SXSW」

アメリカ テキサス州オースティン。今や、世界最大級のビジネスフェスティバルと言われるまでに成長した「SXSW (サウス・バイ・サウスウェスト)」が行われている都市である。

SXSWとは、1987年に音楽祭からスタートしたイベントだが、94年から映画祭も同時開催するようになると、98年にはインタラクティブと呼ばれる“インターネット関連の新技術”の祭典も加えたことで年毎に規模が拡大し、今日では10日間で延べ約10万人、約360億円[*1]の経済効果をもたらす大規模な祭典である。

SXSWは、世界に先駆けてインターネットとデジタルのコミュニティを取り込むことに成功したことで、現在では創造的なアイデアや最先端テクノロジーを持つスタートアップ企業が集まる場となり、twitterやairbnbといった新サービス・プロダクトの登竜門という位置づけとして近年注目されている。

今年の「SXSWインタラクティブ」では、VRはもとより、体験デザインやインターフェイスにおける重要なテクノロジーとしてのAR・MRが引き続き注目され、さらにはAI、脳波センサーや人間の“感情”を分析するテクノロジー等、様々な技術の最先端が展示されていた。

SXSW2017 インタラクティブ1 SXSW2017 インタラクティブ2
SXSW2017 インタラクティブ

また、「SXSWアクセラレーターピッチ」では11部門に区切られた部門毎に、厳しい予選をくぐり抜けた5社ずつが持ち時間2分という限られた時間で、投資家にプレゼンテーションするという形式で取り行われた。そこには、チャットボットと会話することでユーザーの嗜好や悩みを収集し、そのデータを基にユーザーにぴったりの洋服をリコメンドするサービス「Lily」であったり、“スマートサーフェスAR技術”を用いて物体の表面に画像を投影するだけでなく、そこに置かれた立体物を認識し操作を連動させることができるサービス「Lampix」であったりと、今後成長が期待できそうなスタートアップ企業が結集していた。

 

最先端が集まる場所は、”ビジネス パワースポット”

一方、日本勢としては、VRを中心に最新技術を活用した未来エンターテイメントを展示したソニーを筆頭に、パナソニック、資生堂、PARCOといった大企業やスタートアップ企業、「Todai To Texas」プロジェクトから東大の在学生・研究者を中心とするチーム等が参加した。

その中でも、パナソニックの展示ブース「Panasonic House」では、“未来の家電”を大きなテーマに、社内公募で選ばれた8つの新規事業アイデアをプロトタイプやコンセプトの形で展示していた。例えば“DeliSofter ”は、「各家庭で調理された食事を、見た目と味はそのままに、柔らかく軟化加工を実現する専用調理機器」で、「嚥下障害や摂食障害に陥った方々でも、流動食や専用の介護食を別途準備することなく、喫食することが可能」となるハードウェアである。[*2]

DeliSofter試作プロトタイプ1 DeliSofter試作プロトタイプ2
“DeliSofter(デリソフター)”試作プロトタイプ

これらのプロジェクトは、パナソニック社内の有志メンバーが現業と並行して取り組み、社外企業と連携しながら、企画からSXSWでの展示まで約半年~1年間でやり切っているという。

また、今回出展した8つの新規事業について来場者に投票してもらい、最も得票数の多いものを製品化するという仕組みにまで振り切っていたのは印象的だった。感度の高い来場者から、検討中の新規事業に対する生のフィードバックが得られるということも、パナソニックが新規事業の展示場としてSXSWを選んだ理由だ。当然、SXSWに出展することによって、グローバルの投資家やVCといった人たちから出資の相談がくる可能性もある。

さらに、新規事業を検討する上でSXSWのようなイベントに出展するメリットは、新規事業を手掛ける人のモチベーション維持である。

日本企業で新規事業を検討する場合、幾つかの事業アイデアの中から厳選されて企画が決まった後、市場に新商品・サービスを上市するまでの間に社内外の障壁にぶつかり、時には構想段階で企画が頓挫してしまうことも少なくないだろう。その要因のひとつとしては、企画決定から商品上市までの過程に、モチベーションを維持するマイルストンが欠けていることがあげられる。

昨今、エンジェル投資家・VCに向けたピッチイベントやアクセラレータープログラムが充実してきたとはいえ、例えば外部資本を入れずに、社内リソースのみで新規事業を手掛けようとした時の適切なマイルストン設定はなかなか難しい。筆者自身も新規事業開発のコンサルティングを引き受けた際に、クライアント社内の事情論や担当役員の主観によって難しい局面を迎えた経験があるが、SXSWのようなイベントを活用することで、事業化の前に外部からのリアルな評価を受けつつ、関わる人材の士気を高めることができる。

オープンイノベーションの考え方が普及して久しいが、まだまだ踏み出せない企業は多くある。それでも、社内だけで悩むのではなく社外へ出してみることで、新たな発見とビジネスの出会いがあることは確かだ。パナソニックのような大企業であっても、最先端テクノロジーの祭典に出展する等、外の叡智をうまく使いながらスピード感と柔軟性を持って新規事業に取り組んでいる。最先端が集まる場所を単なる見本市として捉えるのではなく、ビジネスにおけるパワースポットと捉えて参加してみることで、自身の事業のヒントを見つけられるかもしれない。

【参考】

*1) SXSW.com (https://www.sxsw.com/facts-figures-quotes/) より、2016年度数値
*2) パナソニックHPプレスリリース (http://news.panasonic.com/jp/press/data/2017/03/jn170306-3/jn170306-3.html)

 

※本コラムは、スルガ銀行グループ 一般財団法人企業経営研究所(http://www.srgi.or.jp/)発行の季刊誌『企業経営 2017年夏季号』(No.139)に掲載された連載「最近のビジネス・コンシューマートレンド」の内容を転載しております。

 

■最近のビジネス・コンシューマートレンド ― 季刊誌『企業経営』掲載記事