※本記事は、2017年の掲載記事に加筆修正をしております。

「デジタルトランスフォーメーション」という単語が生まれ、その意味と領域について模索がされてきた。特にマーケティング活動においては、これまで見えなかった顧客像の輪郭を明確にし、またアプローチする対象とタイミングを図るためには必要不可欠な道具として、データマーケティングツールであるDMP(データマネジメントプラットフォーム)、MA(マーケティングオートメーション)、SFA(セールスフォースオートメーション)の導入が進んでいる。

本来デジタルトランスフォーメーションとは「事業がデジタル化する」「業界がデジタルによって大きく変化する」ことを指していた。デジタルによって事業や業界をいかにトランスフォームさせるか、もしくはトランスフォームした市場や業界でいかに生き残り勝ち抜くのか、ということが本来的な目的である。

しかし、経営や事業構造レベルで検討される例は少なく、マーケティング領域におけるプロモーションやセールスにおいて「デジタル」を活用することが先行して進み、大きく二つの方向に活用されている。

一つ目は、これまでアプローチできていない、どこにいるかわからなかった潜在的な顧客や潜在的なニーズを探索すること。もう一つはコンタクトする手段はあるが、どうしても購買や契約に結び付けることができなかった「想定顧客」に対して適切なアプローチを行うこと。

しかし、なぜかこれらのマーケティング領域におけるデジタルトランスフォーメーションが、いわゆるツール(CRM、MA、SFA)の導入と同義語になっていることが多い。「きちんとマーケティングをしたことがない」と思うのであれば、なおさらツール導入を目的にしてはならない。そのために、これまでの歴史から検討すべき内容を以下にまとめる。

 

デジタルトランスフォーメーションにおけるデータマーケティング「ツール」は、導入から活用へ

本格的なデジタルマーケティングツールである第3世代の「マーケティングオートメーション(MA)」ツールが2015年を境に日本語対応化し、ここ数年でSalesforce以来のMAツール導入が進んでいる。また1stPartyデータ(自社蓄積データ)と3rdPartyデータ(外部DMP)を活用したデータベースマーケティング、およびインフラとしてのDMPの導入も進んでいる。現在は活用フェーズと言ってよく、特に顧客情報の利活用については、1stPartyデータの自社マーケティング活用からその先を、各社は模索していると言える。

(「顧客データ利活用の現状」については、今後クローズドレポートを配信予定)

DMPや現在のデータ利活用の多くは、「見えていなかった」将来顧客の状況をあぶり出すための施策へのインプットとして主に使われている。顧客ペルソナの詳細化、ターゲットアドの精度の向上、商品・サービスリコメンド精度の向上そして商品・サービス開発へのインプットなどである。

一方でMAは、主に自社メディアやその他の自社接点における顧客情報を収集し、自社HP・LPやダイレクトメディアなどと組み合わせることで、「LEAD=高い利用意向をもった状態」であることを判定する。また興味関心を引き出し購入・利用に至らせる支援と、さらには現利用者の利用継続を動機づける活動を支援する仕組みである。

これらの仕組みは、個々の顧客情報を入手し、アンケートや営業訪問といった直接のコンタクトによって契約を取ることをゴールとしているが、改めてそれらのツール類がどのように進化してきたのかを振り返ってみることにする。

 

マーケティングツールの歴史

1.顧客のアクチュアルデータ(デジタルデータ)のない時代

マーケティングの歴史を紐解くと、定量調査によって自社製品サービスに興味がありそうな属性(性年齢、職業や役職、所得など)を導き、それに類似した人たちの「集団=クラスター」を切り出してきたことが分かる。このクラスターを市場全体でMECEに行った状態が「ターゲットセグメンテ―ション」である。

それらのセグメントが興味のある(ありそうな)コンテンツやメッセージを、情報収集をしそうな接点(雑誌やイベント、TV等)に展開することで、認知や興味関心を獲得しようとするマスコミュニケーション(マスマーケティング)がターゲットマーケティングとして行われてきた。またBtoBマーケティングにおいては、業界や企業規模などからニーズを類推するなど、ターゲット企業をセグメンテーションし、プロモーションや営業活動を行ってきた。

BtoBマーケティングにおいては、ターゲットセグメントを含む戦略設計は企業単位で行われ、セールス活動は名刺単位で行われてきた。その際のターゲット「個人」の特性や購入意向の高さ(ホット度)は、主に名刺交換と営業訪問によるヒアリング、もしくはアンケートに頼っていた。これらの営業情報の共有や、営業や提案ノウハウを再現性あるナレッジにするために活動が行われてきた中で、営業活動と顧客状況の共有プラットフォームかつ営業進捗状況=顧客の購入意向度として把握する仕組みが、のちのSFA(セールスフォースオートメーション)に繋がる。

 

2.デジタルトランスフォーメーション黎明期 〜オンライン広告初期〜

定点での調査や対面での情報が顧客の行動を知る全てであった状態から、インターネット、正確にはcookieによって、「特定キーワードで検索した」「サイトにアクセスした」といった活動情報と個人(ただし無記名)を紐づけ、さらにオンライン上であればコンタクトできるようになったのが、オンライン広告であるリスティングやリターゲティングである。ここで起こったデジタルトランスフォーメーションは、これまで見えなかった「自社に興味がありコンタクトしてきた人が、どのくらい存在し、何に興味がありそうか」ということを、少なくとも自社HPの実態を、知ることができようになったことである。加えて前述の、デジタルによって顧客(になるであろう人)を選び、直接アプローチできるようになったという、コミュニケーションの変革がある。

これらにより、顧客の動きを(一部ではあるが)見ることができ、また、より確度の高い「顧客になりそうな人」を選び、コンタクトできるようになった。しかし、それでもなお個人情報や、ましてや購入の検討度や予算などの情報(=LEAD)については、あらためてオンライン上でアンケートを取得する必要があった。

 

3.デジタルトランスフォーメーション発展期 〜オンライン広告拡大〜

自社のHPにアクセスした人々のデータや、オンラインショップ(モール)などでの閲覧データや購買データ、ポイントなどの会員制度で取ることができる購買実態や店舗利用情報など、これらデータを広範かつ継続的に取るために、ポータルサイトや検索ツールの争いがあり、またECプラットフォームの争いやポイントプログラムの争いがあった。もちろんこれらは、それぞれのサービサーが自社サービスや製品販売の精度をあげるために取得していたものであるが、蓄積対象者(ID)が一定量を超えると「代表制をもつ=全員と言って差し支えない」状態になることと、個人情報を直接受け渡さずに無記名のまま行動情報のみを受け渡しすることで、情報を集めた当事者が「自身で使う(1st Party)」ことから、他社に開放して「データ供給源」になる、ひいては「データベースマーケティングのプラットフォーム」となろうとする構想が生まれた。真っ先に導入されたのが、ターゲットと想定される人に効率的に広告を打つために広まった、3rdParyデータを活用した広告向けDMPである。

生活者の検索履歴や購買実績などから興味関心カテゴリーを抽出し、また居住や就業情報から地域情報を取得するなど、これまで定量調査などで行われてきた「顧客クラスター」や「ペルソナイメージ」の概念をそのままに、しかし、顧客クラスターの最大の課題であった「どこにその顧客がいるのか」「どうすればコンタクトできるのか」ということを解消するツールとして利用が広まった。

 

4.デジタルトランスフォーメーション発展期 〜デジタルマーケティングツール導入〜

ほぼ同時期に導入が進んだのが、マーケティングオートメーション(MA)ツールである。米国では先行して導入が進んでいた各社のツールが、2015年に一斉に日本語化されたことで国内導入が一気に拡大したが、それ以前の2010年前後から、日系MAツールやイベント申し込み管理ツールなどはすでに導入・運用が始まっていた。

MAは、主にオウンドメディアでの接点履歴を把握すること、それによるターゲッティングと施策コントロールをすることに主眼が置かれている。

もともと使用されていたツール類は、メルマガを送信し開封チェックをする、また定期的なメール(STEPメール)を送るためのものや、展示会やセミナーなどのイベントの申し込みや来場管理、サンキューメールを送付するなど、マーケティング業務の一部を自動化するためのものであった。

一方で第3世代といわれる2015年以降に日本語化が進んだツールは、その多くはオンライン・オフライン問わず、カスタマージャーニーやユーザーシナリオという購買における検討の「本気度」や「購入のタイミングまでの近さ」を、顧客の行動(HPへのアクセス、資料のダウンロードやセミナーへの参加、見積シミュレーション実施の有無など)の「自社メディアやメールに対するアクション」を設計し、それを半自動化するためのものであった。より正確に言うならば、その半自動化したプロセスをPDCAし、精度を上げていくためのツールである。

 

MAとRPAでオートメーションの意味は異なる

2018年の一大ブームが、AI(という名の機会学習)とRPA(ロボティックプロセスオートメーション)であることは間違いないだろう。

少なくとも日本において、ほぼすべての業種・業界では多能工や熟練者が不足し、特に「考える力」を持ったいわゆる”できる人”が奪い合いになっており、工数削減・ゼロ化ニーズや、貴重な人的資源をより高度な業務に集中させたいというニーズが非常に高まっている。その中では、思考や発見という能力を代替する、もしくはそれを超える存在としてのAIや、教育や習熟というプロセスをなくすPRA(プロセス自動化)は諸手を挙げて歓迎されたのである。

一方で、MAにおける「オートメーション」とは、何が自動化されたのか。

様々な機能はあるが、大きくは「どの顧客が最も購入しそうなのかを判断する材料の収集」と「お客様の行動を設計したシナリオに沿って誘導する施策実施」の2点と言えるだろう。

前者は、統計分析などによって、「どのようなKPIが動くと購入に至るのか」、言い換えれば「購入意向や推奨意向(NPS)がどのようなKPI構造によって上がりうるのか」をモデル化し、自社のマーケティング・プロモーションにおいて「どの施策がよりお客様の意識や行動を購入へ近づけるのか」というモデル構築を行った『結果の情報収集』をすることの自動化である。

それらの収集データに対して、「スコアリングルール」という重みづけを行い、あるスコアに達した人を「ホット客=検討度がより高く本気で検討している人」だと判断し、オファー提示や営業訪問が可能である判断を自動化する。手間や費用をかけるに値する人であるということを、アンケートの代替手段として客観情報で判断する仕組みである。さらに、これまでのアンケートでは、お客様「たち」という集団に対してや、数名の顧客をピックアップして個別にヒアリングすることで、全体の代表と代替してきた。しかしMAでは、本当に一人一人のお客様を判断することが可能となるのだ。

後者は、広報が行っていたメルマガの送信やイベント応募者へのフォロー、また営業が訪問前後に行っていた挨拶や資料送付などを、受付時点から自動化する。あくまでマーケティングやセールス活動の中で一部を代替しているのみであるが、ツールであるため、情報の取り忘れや送り忘れはない。想定したシナリオ通りに進めるのであれば、購買確度を上げるリードナーチャリング(顧客フォロー・顧客育成)を行う仕組みになっているのだ。

MAツールはこれら2つの機能によって「誰が顧客になりそうか?」「その人は購買のどの段階にいるか?」という点を分析し、さらに購買確度を上げるための施策の一部を自動的に代替することができるようになった。それがMAでいう「オートメーション」である。

しかしながら、MAやデジタルマーケティングの進化によって、改めて2つの課題が浮き彫りになってきている。

 

デジタルマーケティングはコンテキストづくりから

1つ目の課題は、デジタル接点は顧客へのリーチを容易にする代わりに、逆に顧客からも簡単に検討を中断されるため、顧客の興味やニーズに合わせたメッセージングや広告制作だけでなく、理解状況や興味関心に合わせた接点・コンテンツの提示を行う必要がある点である。

これまでも、マス広告(TVや雑誌)などでは、伝えられる情報量に限りがあるため、あくまでブランド名認知やイメージ認知、店頭への送客などを目的にしてきた。ブランドそのものの理解や購買動機付けは、店頭や営業に任せていたのである。しかし、デジタルメディアや接点が増加した結果、ブランド理解に加えて、他者(全く関係のない他人の)評価や推奨を、顧客側が入手することが非常に容易になった。つまり、とりあえず顧客の目を引くだけでは効果がなく、例えば「HPには来訪するが全く購入には繋がらない」ということが多々発生するのである。そのため、自社ブランド(製品やサービス)について「何を伝えるか」「どう表現するか」といったコンテンツを、顧客が接した時の反応を計算して「情報設計」し、さらにはコンテンツに対する反応をPDCAし試行錯誤することが重要になった。

我々は、この情報設計を「コンテキスト(文脈)の設計」と呼んでいる。それはお客様がカスタマージャーニーというプロセスを、まるで本を読む・映画を見るかのように、興味を引き、発見をもたらし、そのプロセスから離脱しないようにするための「ストーリー」の構築に他ならない。このコンテキストの設計こそが、MAにおける自社接点構築のキモとなる。

2つ目の課題は、特にBtoBマーケティングにおいては顕著であった勾配意思決定は一人では行われないため、複数人の「組織」に対してマーケティングを行う必要がある点である。

一般家庭においても、家や保険、教育、車といった生涯支出TOP4については、夫もしくは妻が独断で決定することは少ない。例えば車は、検討者と支払者は夫であっても、実際の決裁者(決定者)は妻のことが多い。複数の人が複数の役割で購買に関与するのである。

デジタルアドやダイレクトプロモーションなどの施策は、主に「個客」に対して行うものであった。そのため、購買プロセスにおいては関与者が多く、プロセスが長いという特徴を持つため、企業として購入してもらうためには、デジタルアドやプロモーションを個別に行っていても効果が限定的になってしまう。

よって、これまで優秀な営業マンが行っていたような、顧客企業に通い様々な部署を紹介してもらう過程で、課題を聞き出し、キーパーソンを見つけ営業を行う「アカウント営業」をいかに模倣し、ツールで代替するかを改めて設計する必要がある。これをABM(アカウントベースマーケティング)と言う。

ただしABMをデジタルで行うためには、個客に対してより多層の指標やプロセスの設計を行う必要があり、より詳細な顧客の購買行動(カスタマージャーニーやユーザーシナリオ)を仮説立てることが重要になる。詳しくは別の機会にABMについてご説明する。

 

まとめ:BtoBマーケティングを成功させるツールの活用

キーワードとして、カスタマージャーニーとコンテキスト、業務(処理)の自動化を挙げた。前述のデジタル広告であっても、DMPやMAを用いたデジタルマーケティングであっても、かつてのように訪問営業をするにしても絶対に抑えるべきことが3点ある。

 

①  カスタマージャーニーを想定する

ドラッガーはかつて「マーケティングとはセリングをなくす仕組み」と言った。

現在のカスタマージャーニーによって、バイイング体験=購買体験(UX)や消費体験(CX)を描き、それに対して自社の接点(営業やHP、パンフレットなど)と顧客がどこで、どのように接触するのか、どのようにその接点間を移動していくのか、どのような情報を手に入れ、機能的な便益を受けて、どのように顧客の心情が変化していくのか(少なくともそう変化させるつもりなのか)といった、あくまで顧客の動きや変化を描くことが、対面・非対面問わず、まずは必要なことになる。

 

②  コンテンツとコンテキストを準備する

繰り返しになるが、コンテンツ設計とは、1つの文章や広告を作ることではなく、顧客のカスタマージャーニーの進捗に合わせ、いつ、どこで、どのような内容を提示することがカスタマージャーニーを次に進めていくのか、それらの点を考慮する「コンテキストの設計」が重要なのである。

そのコンテキストを設定するにあたり、どのようなテーマ(顧客が解決・対応したい経営課題や業務課題など)を設定するのか、その課題が一体どのように、何によって解消されるのか(顧客が想像できるソリューションや、顧客が知っているカテゴリーサービス名など)を定めること、そしてそれを、カスタマージャーニーのいつ、どのように「旅している」顧客に対して標識のように示すのか。それらを考えながら必要な情報を削ったり足したりしながら加工することが「コンテンツ制作する」ということになる。

顧客から見て筋の良いテーマであること、そしてそれが必要な時に必要な形に加工されて手に入ること、それがコンテンツとコンテキストを設計するということである。

 

③収集データ対象と収集方法の設計する(顧客状況と施策結果の収集)

―彼を知り己を知れば百戦して危うからずー

この言葉は孫子の時代に語られ、マーケティング戦略におけるもっとも著名な格言の一つである。

MAツールやSFAツールのうち、処理の自動化ももちろん魅力的ではあるが、顧客の情報や状態をデジタル化し収集・閲覧できる状態を作ることができる点を述べた。各ツールによる最も大きなマーケティング進化が、「顧客情報のデジタル化=見える化」である。このデータを閲覧し成果を評価すること、カスタマージャーニーやコンテンツ・コンテキストを設計すること、これらがデジタルマーケティングのマネジメントに他ならない。

上記の3点、お気づきであろうか。MAやSFAといったツールによるデジタルマーケティングに限定されないのである。MAやSFAといったツールによる「オートメーション」は、判断や方針・施策の設計までを自動化するわけではない。判断すること、方針を定めることこそがマーケティングのコア業務であり、かたや一方で、業務や処理をいかに低コスト・低工数で実施するのか。そのための手段としてツールがあると考えるべきである。極論、マーケティング業務とプロセス、KPI(とその収集手段)がきちんと設計され、十分な人がいるのであればツールは必要ない、ということを重々認識すべきである。

もう一度繰り返すと、自社のマーケティングをデジタルで活用するために、ツール導入とあわせて、または先立って設計し実行すべきこと、それが、カスタマージャーニーの設計、コンテンツとコンテキストの準備、顧客状況と施策結果情報の収集なのである。